重油流出事故から2ヶ月
いま漁民は、日本海は・・・

●福井・三国町の漁民たち
●これからが魚の産卵・成長期〃漁場への手だて急げ〃
●政府は補償交渉の窓口に
・・自治体も補償交渉の窓口も国が一本化するよう求める。
・・英国政府は被害者補償とともに基金側と交渉。
●横行する外国の老朽船。油回収船など万全の備えを。
・・荒天でも油回収できる新型の油回収船が93年に造船メーカーによって設計されていたにもかかわらず、事故への備えを怠ってきたことの責任をどう考えているのか。

(3月2日)                  戻る


 日本海でロシアのタンカー「ナホトカ」が沈没してから2日で2カ月。流出重油による被害はかってない規模に広がり、沿岸住民からは政府の無策による「人災だ」という声もあがっています。漁業や観光などの被害補償、沈没した船尾部の対策、環境への後遺症をいかに少なくするか・・・政府の対応が問われています。


福井・三国町の漁民たち

◆〃ことし一度も漁にでてない〃

「今年になって一度も漁にでていない」。5トン規模の船をもつ福井県三国町の漁民は「例年、冬場の漁は月7日も出られたらいい方。きょうは天気がよかったけど油回収の当番日やった。この前のシケで、また岩場に油がついたし」と話します。
 漁に出るときは魚探知機や無線機、一把(ぱ)3〜4万円する網を20把も積んでいきます。「船に経費がかかってるから、仕事場をなくした今、補償してほしいというのが本当の気持ち。漁には出てみなわからんけど、とってきた物がいい値で売れるやろか」と不安をつのらせています。「重油が漂着したときの高波で消波ブロックは上のほうまで黒くなってる。暖かくなって油が溶けだし、海がまた汚れないか」とも心配します。

◆〃冬場のうちに重油回収ぜひ〃

 海女は「例年だと岩ノリ、スガモ、ハバなどの海草をとって簀(す)に張る仕事をしている。品物は知り合いの人や民宿などに個人売りする人もいる」。しかし今年は・・。
 重油に汚れた石をふく作業で海岸にでているという60歳代の海女は「油がついているところへ岩ノリがはえてきていましたが、食べる気持ちにはなれませんでした。ボランティアの人に助けられ、海はずいぶんきれいになりましたが、今年は海に入れるのか、来年は大丈夫なのかと不安はつきません。岩についた油をとるのは自然にまかせるよりほかに方法がないという人もいますが、とにかく寒いうちに回収してほしいというのが一番の気持ちです」といいます。
 

◆〃カニは風評被害で価格が3〜5割低下。岩ノリの成長は2、3年。アワビの育成には6年


 県漁業協同組合では「深海で捕れるカニは風評被害で価格が3〜5割低下した。岩ノリは成長するのに2、3年、アワビの育成には6年かかる」といいます。重油防除費用以外の損害の内容については、@休業A価格低落や漁場規制などによる漁獲減少B岩ノリ、ワカメなどの根つけ漁業C組合員の販売手数料の減D風評被害などがある、と指摘。さらに人が近づけない岩場などに油の塊があったとき、春にかけて溶けだし、沿岸や定置網に漂着したりしないかと被害の拡大を懸念しています。このため、それらの調査と対策から「まだ被害調査にも入れていない」状況です。
 

◆これからが魚の産卵・成長期〃漁場への手だて急げ〃

 「日本海はどうなるのか、国は何をしてくれるのか」。黒い岩はだを前に、住民は不安を募らせています。
 水産庁の日本海区水産研究所は、2月に福井・石川県沖などの水深10メートルから200メートルの海域で汚染状況と海洋生物の影響調査を実施しました。本格的な影響分析はこれからですが、同研究所の稲田伊史室長は「報告では、三国町沖の海域でプランクトンネット(口径約1メートルのかご)を引き上げたところ、重油の細かな粒子でネットが真っ黒になり、細かい重油が海中に漂っていることがわかった」と汚染状況を話します。

◆海草が北上の時期、重油処理を早く
●東北区水産研究所研究部長の河井智康さんの話・・流れ藻の下に多くの稚魚が。

 日本海は太平洋と違つて、大型回遊魚が少なく、ブリなど沿岸性の魚が多い。これから4月ごろまで、海底のホンダワラなどの海草がちぎれてかたまりになった「流れ藻」が、たくさん海流にのって北上します。流れ藻の下に多くの稚魚が群がり、北上しながら育っていきます。
 ところが、重油は粘着性があるため海草に付着しやすく、その毒性が魚に直接影響したり、エラをよごすなど、とりかえしのつかない後遺症を残しかねません。

・・海底を重油でよごさせない長期的な監視と対策が必要 
 さらに、沈没した船尾部に残る重油の影響は、長期的で大きい。重油が海底に沈めば、ハタハタなど沿岸の海底に産卵する魚が心配です。福井県、石川県沖にその産卵場所があるという報告もあります。
 海草の被害もより長期的・深刻になってしまう。未回収の重油の何割が海底に沈むのかはわかっていませんが、海底を重油でよごさせない長期的な監視と対策が必要です。

◆重油で海底や生物を汚してはならない
●環境問題研究家・森泉さんの話

 海底に茂っている海草は「海中林」といい、稚魚や貝類が育つ「ゆりかご」になっています。重油は海中林やそこの生物にとって毒物です。
 海岸に漂着した重油を住民、ボランティアが必死に回収し、船首部からの抜き取りも終わりました。しかし、これで海底は汚れないと、安心できません。
 海上保安庁や政府の対策本部は、船尾部から流出する重油が「拡散消滅している」と回収を怠っています。バクテリアが重油を分解しますが、自然界では長い時間のかかる過程です。91年の湾岸戦争で原油汚染したサウジアラビアの白い砂浜は、6年たっても真っ黒です。アラスカ沖のタンカー事故で汚れた海岸も、砂浜を少し掘ると油がでてくるといいます。
 回収の手のとどかない海岸に漂着した重油が、荒波で別の海岸に流出しないようにするため、オイルフェンスをもっと活用する必要があります。オイルフェンスは、重油が乗り越えるといってあまり使われなかったが、これは誤っています。沖からくる重油はオイルフェンスを乗り越えますが、波が引く時にはあまりでません。漂着重油が広がらないように、二重三重にオイルフェンスをはる油封鎖はいまも重要です。

 国は責任をはたしているか。

◆政府は補償交渉の窓口に

・・自治体も補償交渉の窓口も国が一本化するよう求める。
 英国政府は被害者補償とともに基金側と交渉。

 被害総額178億円。政府が2月25日までにまとめた額ですが、これは2月中旬段階のもので、しかも漁業、観光、環境などの被害は「調査中」で、一切含まれていません。最終的には国際油濁補償基金による補償限度額の約225億円を超えるのは確実になっています。
 補償対象とするかどうかはすべて基金側が判断します。このため石川県加賀市では、重油の混じった砂山の処理費が補償対象にされないという事態がおきています。また、実際に補償金が支払われるまでには、相当な期間がかかります。
 被害住民からは補償問題でも国の責任ある対応を求める声が相次ぎ、自治体も「本来、油防除は国と海上災害防止センターの仕事だ。自治体が肩代わりしているのだから、国が責任を負うのが当然」と指摘。補償交渉の窓口も国が一本化するよう求めています。
 政府は、油除去に直接かかった自治体費用の半額、20億円を負担することを決めました。しかし国が補償の交渉の窓口になることは、「民事上の問題なのでなじまない」としぶっています。
 日本共産党の木島日出夫衆院議員は予算委員会で、93年の英国北方でおきた油汚染のさいに、英国政府が被害者に補償するとともに基金側と交渉した例をあげて、政府に交渉を要求しました。

◆横行する外国の老朽船。油回収船など万全の備えを。

ナホトカ号が沈没したのは1月2日未明。この日午前10時すぎには、第一報が内閣官房長官と首相秘書官らに伝えられました。海上保安庁はただちに船員の救助・捜索にあたりましたが、重油回収にのりだしたのは清龍丸に出動命令をだした4日夜。同庁に対策本部を設置したのは、福井県三国町に黒い波が押し寄せたあとの7日午後でした。
 さらに政府が関係省庁の局長クラスによる対策本部を設置したのが10日、関係閣僚会議は事故から18日もたった20日になってやっと開かれました。
 こうした対策の遅れにきびしい批判を受けながら、政府の対策本部は2月18日に自衛隊や航空機、船舶の出動体制を縮小。科学技術庁も深海調査船ドルフィン3kによる船尾調査を打ち切ってしまいました。

◆荒天でも油回収できる新型の油回収船が93年に造船メーカーによって設計されていたにもかかわらず、事故への備えを怠ってきたことの責任をどう考えているのか。

 「事故は荒天のときに起こる。事故への備えを怠ってきたことの責任をどう考えているのか」。対策の遅れを荒天のためとする政府に、住民は批判の声をあげています。
 1990年一月に京都の丹後半島沖で沈没したリベリア船からの流出重油が、若狭湾の海岸を汚染しました。この直後、日本共産党の寺前厳衆院議員は、日本海に油回収船が配備されていない間題をとりあげ、政府に対策を提起していました。運輸省の全国港湾建設労働組合も、油回収船の日本海配備を要求。波の高い外洋でも油回収ができる新型の油回収船も93年に造船メーカーによって設計されていました。
 しかし、「いつおこるかわからないものに大きな予算をかけるわけにはいかない。出番がくる前に老朽化してしまうかもしれない」(海上保安庁海上防災課)などという理由で政府は備えを怠りつづけてきました。
 日本海は、津軽海峡をぬけて力ムチャッカにむかうロシアの老朽タンカーがひんぱんに往来するなど、油汚染の危険は年ごとに大きくなっています。沿岸住民の命と財産、生活を守る備えが、政府に問われています。


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