ロシア極東の石油・船舶事情
「ロシア船は古くて危険だから、貨物保険の保険料を高くしたり、保険そのものを拒否する保険会社もある」。
ロシア貿易にたずさわる商社員の話です。日本海で沈没し、重油流出事故をおこしたタンカーも、ロシアの老朽船でした。日本に直接影響を及ぼすおそれのあるロシア極東地方の石油事情とロシア船舶の現状を見てみました。
◆ますます増える石油の輸送量。日本海を通過するロシア・タンカーが増加
ロシアはソ連崩壊で、バルト海沿岸のリガ港(ラトビア)や黒海沿岸のオデッサ港(ウクライナ)などヨーロッパ部の主要港を失い、貿易上、極東地方の港湾の重要性が増しています。極東地方には、不凍港のウラジオストク港、ナホトカ港、ヴァストーチヌイ港など22の港湾があります。
ロシアはもともとは石油輸出国で、ナホトカ港だけで年間150万トンの石油が輸出され、120万トンの燃油がロシア沿海地方に運ばれています。(ロシア東欧貿易会の「調査月報」95年6月号)
一方、同地方で使う石油などは、西シベリアから運ばれてきました。ところが、資本主義化路線による経済の混乱で、ロシア国内の原油価格や鉄道輸送料が高騰。このため、国内の石油を買うより輸入の方が安いという状況がうまれ、近年、緊急避難的に中国、香港、シンガポールなどアジア諸国から年間10数万トンを輸入しています。これらは、タンカーで日本海を通り極東の港に陸揚げしています。
日本エネルギー研究所によると、ナホトカ港に石油精製基地の建設計画があり、極東地方の石油輸入量は2010年には90万トンになるといいます。今後、日本海を通過するロシア・タンカーが増加することは聞違いありません。
◆極東のロシア船舶50%以上が老朽船。
日本海をひんぱんにロシア老朽船が航行
極東地方や日本海を往来するロシア・タンカーが増加する一方で、同国の船舶は老朽化がすすんでいます。
先の商社員は、「日本海やオホーツク海の荒海を、こんな船でよく運んでくるよ。ロシアの船はいつ沈没してもおかしくないなと思うような古い、赤さびた船ばかりだ」といいます。
ロシア東欧貿易会「調査月報」(93年9月号)によると、極東地方には約600隻の船舶(総トン数500万トン)があり、その50%以上が建造後18年以上の取り替え時期を過ぎた船舶だが、新造船は価格が高く、困難な状況にあるといいます。
ロシア船籍のタンカーは、ロイド船籍会社の資料によると、95年12月の時点で、299隻(百総トン以上のもの。内航タンカーも含む)で、平均使用年数は17年といいます。
95年6月上旬にジュネーブで開催された国連貿易開発開議(UNCTAD)の会議では、旧ソ連崩壊後、再投資レベルが劇的に低下し、老齢化した船隊を活性化する必要があるものの、船舶購入のための資金が極度に不足していることが障害となつていると指摘し、船隊の支援策を採択しているほどです。
◆建造後27年たっていた「ナホトカ」号
今回、日本海で重油流出事故をおこした「ナホトカ」も建造後二十七年を経過していた老朽船でした。
海事産業研究所によると、タンカーによる油流出事故を防ぐために93年に発行した国際海事機構(IMO)の二重船穀構造タンカーの規則により、二重船穀構造ではない2万総トン以上のタンカーで船齢25年以上に達する原油タンカーの航海が規制されました。「ナホトカ」は総トン数が2万総トンをわずかに下回ったため、規制の対象から外れていました。
◆汚染の恐れ知りながら対策とらない日本政府。事故がおきてからも後手後手の対応
二十日に、日本共産党の不破哲三委員長と懇談したロシアのバノフ大使は、不破委員長の指摘にこたえ、法的責任は船主にあるが「ロシア政府にもモラル(道義)上の責任はある」と認めたように、老朽船の運航を事実上放置しているロシア政府の責任も間われます。
同時に、ロシア船舶の老齢化、ロシア極東地方に出入りする老齢タンカーなどの増加で日本海地域の危険性が高まっていることを承知していながら、対策をとってこなかった日本政府の責任も重大です。
海上保安庁が作成した「山陰沿岸・若狭湾海域排出油防除計画」でも、同海域の留意点として、ロシアなど多数の外国船舶が就航しており、座礁事故などを起こし、「油の大量流出事故を発生させる蓋(がい)然性が高い」と指摘していました。
しかし、政府は、油流出事故にたいする万全の防除体制をつくらず、実際は事故がおきてからも後手後手の対応になっています。